リチャード・リンクレイター『6才のボクが、大人になるまで。』
この作品の監督であるリチャード・リンクレイターの『ビフォア・サンライズ』と『ビフォア・サンセット』が好きなこと、この作品がアカデミー賞を獲りそうなこと、そして観る機会に恵まれたこと。それらの偶然が重なって観に行ったのだが、結論から言うと僕はそれほど好きでもない。本音を言うと166分はさすがに長い。とは言ってもすべてがすべてつまらなかったわけではないのが難しいところ。そういう映画だった。
この映画での試みは興味深く、実際に成功している。6歳だった少年が18歳になるまでの12年を、俳優の成長とともに撮影する。それらはとんでもなく手間のかかることだが、主演のエラー・コルトレーンの成長は見るに値すると思う。とてもかわいらしい少年がいかにもモテそうなティーンネイジャーへと変化し、少しむさいけどかっこいい大学生になる。それを傍から眺めるのは楽しかった。
ただし、この映画はドキュメンタリーではない。物語であり、明確なコンセプトがあった。それは「子供はいつも正しい」「大人は結構間違う」である。
この映画に登場する大人たちは、それはもう大体間違っている。物語早々に両親は離婚、父親はバンド志望のプーで、母親はヒステリック。母は大学に戻り、再婚するも相手はアルコール依存症。そこから離脱するもまた再婚する。父親は中学生の娘に避妊の講義し、息子への誕生日プレゼントは自身編集のビートルズの「ブラック・アルバム」(超笑える)。とにかく出てくる大人すべてが、子供目線からは失笑を買う存在なのだ。
しかし、子どもたちは、そんな親たちの情けない姿を笑ったりしない。むしろ驚くほどそれに理解を寄せる。途中息子はヤリチンになりかけるし、娘もビッチになりかけるけど、基本的にはまっすぐに、とても魅力的な成長を遂げる。
でもこれこそがアメリカ人の夢なのだと思う。アメリカ人にかぎらず、子を持つ親、そして社会の夢だ。観ている僕自身、彼らがまっすぐ成長したことがうれしかった。嫌な方向に進む姿を見たくなかった。
そしてそんな娘、息子たちも自身の恋、親離れ、将来の事になった途端、正しいだけの存在でいられなくなる。たくさんの間違いを犯す将来を歩むことになる。
12年をかけて、実際に俳優の成長を見守りながら成長するという、ある種実験的な試みでもありつつ、そのレールに一緒に乗り込んだ途端、この作品を見守りたくなる。そんな不思議な映画だった。まさに『スクール・オブ・ロック』と『ビフォア・サンライズ』を撮った監督の映画だと思う。
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