アブデラティフ・ケシシュ『アデル、ブルーは熱い色』

アデル、ブルーは熱い色 スペシャル・エディション [Blu-ray]

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女の子同士の恋愛映画だと思っていたのだが、あまり関係なかった。題材としてはレズビアンの物語ではあるが、ふたりともレズビアンであることをことさら強調したりしない。「いろいろ試してみた結果相手に行き着いた」程度くらいの感覚、とまではいかないにせよ、映画の大きなテーマに「レズビアン」とか「同性愛」が存在する程でもない。「恋」とか「すれ違い」とか、恋愛映画にとって当たり前のことがテーマだったと思う。

例えば「同性愛」をテーマに据える場合、それに対する反抗、つまり性的に保守的な人間や宗教の問題が絡んでくる。実際そういう場面も2箇所ほどあった。しかし「世間とか社会への反発としての同性愛」という形では描かれていなかったし、それがこの作品の優れた部分なのだろう。つまり結果として彼女たちは同性愛者になってしまったのだけど、そこに至る過程には男と付き合った過去があり、いろいろな経験を経た上でこうなってしまったのだ。「男よりも女の方が好き」という面も多少はあるが、それよりもむしろ相手ありきの恋愛だったと思う。

アデルは唐突にエマに恋をし、そしてその想いは成就する。しかし彼女たちはすれ違ってしまう。

アデルは「教員になる」夢があり、エマは「画家として成功する」夢があった。その二人の夢を叶える上で、彼女たちは良きパートナー同士にはなれなかった。

運命的に恋に落ち、セックスの相性もよく、互いに愛しあっても駄目なことがある。セックスがいまいちでも、それほど愛していなくても、お互い居心地良く過ごすことができて、夢を共有できることもある。

恋とか愛が破れ、それでも想いを抱きながら生きていくアデルの姿が哀しく、だけどその力強さがかっこよかった。

 

余談その1、話題になった濡れ場はたしかに過激だけど、それほどでもない。余談その2、179分はしんどいけど、映像はいちいち見事。